若くしてラ・マシアを去った少年たちは成功できるのか(国外移籍編)

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今回の検証ケースについて

FCバルセロナといえば世界中の子どもたちがプレーを夢見るようなクラブであり、ラ・マシアの愛称で親しまれる下部組織には国内外の有望な選手が集まることで有名だろう。しかし、近年ではバルセロナでのトップデビューという夢を捨て、国外のビッグクラブに移籍するケースが増えており、サポーターの間では人材の流出を危惧する声も大きい。では、実際にバルセロナからの退団を選んだ選手は成功の道を歩むことができているのか?今回はこうした疑問に答えるため、彼らのその後を追ってみたいと思う。

今回の対象となる選手は、約10年前となる2010/11シーズン以降で退団した選手。それに加え、フベニルA(U19)以下での退団+スペインを除く欧州4大リーグのメガクラブ(※主観)を新天地に選んだことを条件としている。バルセロナB、いわゆるリザーブチームからの移籍については、既に年齢も重ねており、選手としての将来性にも一定の評価が可能なことから今回は対象とはしない。また、現時点(2021年7月)で19歳以下の選手については評価を下しづらいため除外対象とする。それでは早速見てみよう。

フベニルA(U19)

アドリア・カルモナ(1992/02/08)

移籍年:2010/11 移籍先:ACミラン

18歳となった2010年夏、ACミランに移籍することを選択するが、ACミランでのトップデビューは果たせていない。その後はジローナ、エスパニョール、アルバセテ、ルーゴといった国内クラブを転々とし、スペイン2部~3部を主戦場とした。29歳の現在はCEルスピタレートを契約満了となり無所属となっている。


クリスティアン・セバージョス(1992/12/03)

移籍年:2010/11 移籍先:トッテナム

17歳の2010年夏に、イングランドのトッテナムに移籍。トッテナムU23では28試合13得点7アシストと印象的な活躍を見せるも、トップデビューは果たせていない。その後はチャールトン、シント=トロイデンを経て、現在はカタールSCでプレー中だ。


ジョン・トラル(1995/02/05)

移籍年:2011/12 移籍先:アーセナル

ラ・マシアではセルジ・サンペールとホットラインを形成し、16歳でフベニルAに昇格していた存在であったが、2011年夏にアーセナルに移籍。アーセナルでは負傷の影響がありながらも粘りを見せ、2014年7月にはトップチームのプレシーズンに帯同するもトップデビューには至らなかった。レンタル先のブレントフォードやバーミンガムの所属するチャンピオンシップ(イングランド2部)では優秀な成績を収めるも、2016/17シーズン以降は低調なパフォーマンスが続き、現在はギリシャ1部のOFIクレタに所属している。


フラン・アルバレス(1996/09/04)

移籍年:2015/16 移籍先:ASモナコ

19歳の誕生日を直前に控えていた2015年夏、フランスのASモナコに加入。しかし、モナコでのキャリアは1年間のみ(トップチームでの出場は0)であり、その後は3部以下のクラブでプレーしながら現在は無所属となっている。


ファンマ・ガルシア(1997/01/18)

移籍年:2016/17 移籍先:リヴァプール

2015/16シーズンにはUEFAユースリーグの優勝に主将として貢献した彼は、シーズン終了後にリヴァプールに移籍することを選択。しかし、リヴァプールでは怪我に苦しみトップデビューを果たせずに退団しており、現在は無所属となっている。


ジョルディ・ムブラ(1999/03/16)

移籍年:2017/18 移籍先:ASモナコ

300万ユーロという移籍金でASモナコに渡った18歳は、9ヶ月後にトップデビューを果たしている。しかし、ASモナコでの出場試合数は12試合に留まると、2020年からは期限付き移籍も含めてスペインに帰還。現在はマジョルカに完全移籍しており、念願のラ・リーガ(スペイン1部)での挑戦が始まっている。


セルジオ・ゴメス(2000/09/04)

移籍年:2017/18 移籍先:ドルトムント

バルセロナBでのデビューを飾っていた17歳は、ムブラと同じく300万ユーロの移籍金にてドルトムントに加入。1年半後にはSDウエスカに期限付き移籍で加入し、1部初昇格の原動力となっていた。そのままウエスカの1部初挑戦にも期間延長で加わっているが、シーズン終了後にベルギーのアンデルレヒトに完全移籍することが決定している。


マテウ・モレイ(2000/03/02)

移籍年:2019/20 移籍先:ドルトムント

彼もまた2017/18シーズンのUEFAユースリーグ優勝の立役者であり、バルセロナBへの昇格も決まっていたが度重なる膝の負傷により離脱。その後、契約更新の打診を拒否し、19歳の夏にドルトムントへと活躍の場を移している。ドルトムントではレギオナルリーガ(ドイツ4部)に属するセカンドチームから始まり、移籍から11ヶ月後の2020年5月にトップデビューを果たすと、現在に至るまでドルトムントのトップチームでは29試合に出場している。

フベニルB(U18)

セルジオ・ブエナカサ(1996/04/19)

移籍年:2013/14 移籍先:ユヴェントス

サラゴサから14歳でラ・マシアに加入した彼は、3年後の2013年夏にイタリアのユヴェントスに移籍。トップチームのトレーニングには帯同していたがデビューには至らず、2015年に古巣のサラゴサに復帰した。その後はマジョルカ、ポンフェラディーナ、マラガといったクラブで2部リーグに在籍する期間もあったが、現在はスペイン3部のクルトゥラル・レオネサに所属している。


ムスタファ・セック(1996/02/23)

移籍年:2013/14 移籍先:ラツィオ

セネガル生まれの彼は5歳でスペインに渡り、ラ・マシアで8年間の時を過ごしていた。後述のチームメイト、ケイタ・バルデに触発されて同じくイタリアのラツィオと契約を締結。プリマヴェーラではタイトル獲得にも貢献していたが契約面で条件に折り合いが付かず、ASローマと契約。ローマではヨーロッパリーグの1試合に出場するも、以降はレンタル生活が始まっており、5クラブでのレンタルを経て現在はポルトガル2部のレイションイスSCに所属している。


カルロス・ブランコ(1996/01/06)

移籍年:2014/15 移籍先:ユヴェントス

エスパニョールから16歳でラ・マシアに加入した彼は、2年後の2014年夏にユヴェントスに加入。プリマヴェーラでは重要なポジションを築くもトップデビューには至らず、2017年よりヒムナスティック・タラゴナに移籍する形でスペインに戻っていった。その後も目立った活躍は残せず、現在はスペイン3部のCDアルコジャーノに所属している。


アドリアン・ベルナベ(2001/05/26)

移籍年:2018/19 移籍先:マンチェスター・シティ

13歳でラ・マシアに加わった少年は、17歳になった4年後にイングランドのマンチェスター・シティに移籍。EDS(リザーブチーム)では54試合で11得点16アシストと確かな存在感を見せており、プレミアリーグでの出場は果たせていないがカラバオカップでは5試合に出場している。そんな彼だったが2021年7月にパルマ・カルチョに移籍し、マンチェスター・シティを去っていった。

カデーテA(U16)

エクトル・ベジェリン(1995/03/19)

移籍年:2011/12 移籍先:アーセナル

幼い頃からラ・マシアに所属していた彼は、16歳の夏にイングランドのアーセナルに移籍している。その2年後にはアーセナルのトップデビューを飾り、現在ではクラブを代表する選手となるなど成功例の1つとなった。


ポル・ガルシア(1995/02/18)

移籍年:2011/12 移籍先:ユヴェントス

エスパニョールより加入した少年はわずか1年後にイタリアのユヴェントスに移籍。しかし、ユヴェントスのトップチームで出場することは叶わず、セリエB(イタリア2部)などの5クラブを期限付き移籍で渡り歩いた後、ベルギーのシント=トロイデンに加入した。ベルギーリーグでは日本人の記憶にも新しいように出場機会は多く、その活躍が評価されて現在はメキシコ1部のFCフアレスでプレーしている。


ケイタ・バルデ(1995/03/08)

移籍年:2011/12 移籍先:ラツィオ

スペイン生まれのセネガル人である彼は、ユーチームでカタールに訪れた際の悪ふざけが原因となり、16歳となったタイミングでイタリアのラツィオに30万ユーロで移籍。18歳でトップデビューを飾ると、ASモナコに移籍するまでに137試合で31得点22アシストという文句のない活躍をラツィオでは残している。後の少年らに影響を与えた成功例の一つだろう。


ママドゥ・トゥンカラ(1996/01/19)

移籍年:2012/13 移籍先:ラツィオ

ケイタ・バルデの移籍から1年後にラツィオが獲得したのが彼だ。プリマヴェーラでは自慢の得点力を発揮し、2013/14シーズンの最終節でセリエAデビューを果たしていた。しかし、その後はセリエBを中心としたレンタル生活が始まっており、2019年夏にラツィオを退団。現在はイタリア2部のチッタデッラに所属している。


セルジ・カノス(1997/02/02)

移籍年:2013/14 移籍先:リヴァプール

3年間のラ・マシア生活を過ごした彼は、16歳でイングランドのリヴァプールに引き抜かれている。2015/16シーズンに期限付き移籍で加入したブレントフォードでのパフォーマンスが認められ、リヴァプールでもプレミアリーグも飾っているが、出場したのはデビュー戦の1試合のみでリヴァプールを退団。現在は彼が最初にシニアカテゴリで輝きを見せたブレントフォードの所属となっている。


フリオ・プレゲスエロ(1997/01/26)

移籍年:2013/14 移籍先:アーセナル

エスパニョール、アトレティコ・マドリードを経てラ・マシアに加入した彼は、セルジ・カノスと同じようにイングランドのアーセナルに移籍。アーセナルU23で一定の評価を得ると、マジョルカとヒムナスティック・タラゴナでのレンタルから復帰した際にはカラバオカップでデビューを飾るも、1試合のみの出場で退団している。現在はオランダ1部のトゥウェンテに在籍中だ。


ジョシマル・キンテーロ(1997/02/03)

移籍年:2013/14 移籍先:チェルシー

エクアドル出身で幼い頃からラ・マシアに在籍していた彼だったが、16歳でイングランドのチェルシーに加入している。しかし、チェルシーのトップチームには到達することはなく、ロストフ、ベティスやリェイダといったクラブにレンタルした後、エスパニョールに移籍。現在はアメリカ2部のレアル・モナークスに所属している。


マオウドゥ・ディアロ(1999/11/09)

移籍年:2015/16 移籍先:ASローマ

セネガルからラ・マシアに加入した彼は、15歳でイタリアのASローマに移籍。しかし、ローマのトップチームはおろかプリマヴェーラでも目立った活躍は残せず、マイナークラブを転々としながら現在はUSサレルニターナに所属しているとされている。


ボビー・アデカニェ(1999/02/14)

移籍年:2015/16 移籍先:リヴァプール

ナイジェリア人の彼はアヤックスからラ・マシアに加入しているが、FIFAの制裁によって退団を余儀なくされた背景もあり、16歳でリヴァプールに移籍している。リヴァプールではU18~U23でプレーするものトップチームの出場には至らず、ラツィオに新天地を求めることとなった。


エリク・ガルシア(2001/01/09)

移籍年:2017/18 移籍先:マンチェスター・シティ

アンス・ファティやアドリアン・ベルナベ、久保建英といった世代のキャプテンを務めていた枯れ葉、16歳となった2017年の夏にジョゼップ・グアルディオラに導かれるようにしてマンチェスター・シティに移籍した。トップチームではグアルディオラからも信頼を置かれながら35試合に出場したが、2021年夏に再びバルセロナに復帰している。

総括

評価名前退団移籍先TOP出場現所属
失敗アドリア・カルモナ10/11ACミランなし無所属
失敗クリスティアン・セバージョス10/11トッテナムなしカタールSC
失敗ジョン・トラル11/12アーセナルなしOFIクレタ
成功エクトル・ベジェリン11/12アーセナル239試合アーセナル
成功ケイタ・バルデ11/12ラツィオ137試合ASモナコ
失敗ポル・ガルシア11/12ユヴェントスなしFCフアレス
やや失敗ママドゥ・トゥンカラ12/13ラツィオ3試合チッタデッラ
失敗ムスタファ・セック12/13ラツィオなしレイションイス
失敗セルジオ・ブエナカサ13/14ユヴェントスなしクルトゥラル・レオネサ
やや失敗セルジ・カノス13/14リヴァプール1試合ブレントフォード
やや失敗フリオ・プレゲスエロ13/14アーセナル1試合トゥウェンテ
失敗ジョシマル・キンテーロ13/14チェルシーなしレアル・モナークス
失敗カルロス・ブランコ14/15ユヴェントスなしアルコジャーノ
失敗フラン・アルバレス15/16ASモナコなし無所属
失敗マオウドゥ・ディアロ15/16ASローマなしサレルニターナ
やや失敗ボビー・アデカニェ15/16ラツィオ15試合ラツィオ
失敗ファンマ・ガルシア16/17リヴァプールなし無所属
やや成功エリク・ガルシア17/18マンチェスター・シティ35試合バルセロナ
やや失敗ジョルディ・ムブラ17/18ASモナコ12試合マジョルカ
やや失敗セルジオ・ゴメス17/18ドルトムント3試合アンデルレヒト
やや失敗アドリアン・ベルナベ18/19マンチェスター・シティ5試合パルマ
やや成功マテウ・モレイ19/20ドルトムント29試合ドルトムント

今回の対象となった22選手のうち、実に半数の11名が移籍先でのトップデビューには至っていないことが分かる。また、残りの11人のなかでも、6名が5試合以下の出場に終わっているため中々厳しい実情にあると言えるだろう。誰の目から見ても成功例となったのはエクトル・ベジェリンとケイタ・バルデの2名だけであり、ラ・マシアから若くして国外のビッグクラブに移籍することについては選手としても慎重に検討すべきなのではないか。

FCバルセロナからの退団には、クラブから延長打診がなかった選手、自ら契約延長を断った選手、はたまたクラブ事情によって退団を余儀なくされるなど様々なパターンは見られるが、いずれにせよ成功を勝ち取れるのは一握りだろう。このラ・マシアからの流出は現在進行系で続いているため、また改めて追ってみたいところだ。

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